~ついでにダンナも育てましょう!男=ワイン!?

イングリッシュジェントルマンという言葉を聞いたことがあるだろう。私はこのジェントルマンたちはイギリス人女性ありきなのではないかと思う。イギリスに来て、何度か経験したカルチャーショック。その中に女性の強さもあった。
Lowe Farm B&B開業当時、クライブはあまり協力的ではなかった。それどころかお客が来てももともと人前に出るのが苦手であいさつすらままならなかった。私も初めて会ったとき、顔が真っ赤になって口下手なイメージが彼に対して強かったのを、今でもよく覚えている。それが2度目に彼に会ったときのえらい成長ぶりに驚いた。イギリスのB&Bでは朝食が必ず付くのだが、イングリッシュブレークファーストといってこれは全国でほぼ同じものが出る。トーストと、卵、焼いたトマトにベーコンとベイクドビーンズ。それにそれぞれのB&Bで工夫して色々なものをつけるのだが、朝起きるとキッチンにクライブがいた。いつも起きてきて、牛乳とスプーン2杯の砂糖の甘いミルクティーを飲んでさっさと鶏に餌をやりに行ってしまうのに、どういうわけかトースターの前を陣取っている。そして大きな丸っこい手で4枚入りのトースターから順番に手際よくパンをひっくり返す。そしてその間にケトルのスイッチを入れ、ポットに紅茶をいれ、お客さんに出しにいく。その間に何やらジュリエットがぶつくさ文句を言っている。「まったくまたお客さんのところで油うってる!一度出たら戻ってきやしない!」。今では農場に働きに行くよりお客さんとの会話が楽しくなってしまっているようで、以前のふさぎがちな彼とは比べものにならないくらいよくしゃべる。にこにこと嬉しそうに戻ってくるクライブに一喝、ジュリエットの檄が飛ぶ。「クライブ!べらべらしゃべってないで。パンが焦げちゃうじゃない!」シュンとした素振りを見せるもちらっと私にベロを出す。ジュリエットもそんなことを言いつつもクライブが手伝ってくれることに嬉しげだ。「クライブ、変わったね。あんなに手伝うようになるなんて、助かっちゃうね!」というと「ユキ、ダンナには愛と教育が必要よ!」と誇らしげに笑みを浮かべた。よく褒め、時には叱り(いつも叱られているようにも思うが)、おいしいご飯とワインを飲ませ、妻はいつもキレイでいること。そしてちゃんと二人でいるときに「愛してるわよ」と感謝の気持ちを表すことが秘訣だそうだ。
「最近わかったことなんだけど、男はね、ワインと一緒。年数が経てば経つほどおいしくなる。熟成されてまろやかになるのよ。」これがジュリエットの格言。なるほどと思う。
クライブは最初、B&Bの仕事に積極的ではなかったが、自分たちで作り上げたB&Bで幸せそうなお客の顔を見、そしてそれによってジュリエットが幸せになっていく姿を見て、徐々に変わっていったそうだ。こんなただっ広い自然の真ん中で、人と会う機会なんて街に出ない限りあまりない。基本的にイギリスの農家のおじさんたちは口下手が多く、シャイなタイプに分類されると私は感じたが、Lowe FarmをB&Bにして、全国からお客さんが来るようなり、今では日本やオーストラリア、エジプトなど世界中から人が集まってくる場所になった。ジュリエットはここヘレフォードにある村から出たことはない。それはクライブと同じだったが、彼女は誰とでも臆せず話ができる。そんな彼女の姿をみて自分も少しずつ話に加わっていった。そして今ではお客さんとの会話が楽しみで、小さな片田舎の村にいながら世界中の話が聞けるんだとまるで世界旅行を楽しんでいるようだった。
Lowe Farmにいた1年間、この二人が喧嘩をしていてクライブが勝ったところをみたことがない。この二人に限らず、基本的にイギリス人夫婦でダンナが喧嘩に勝つ瞬間なんてやってくるのだろうか?とさえ思ってしまう。Lowe Farmにくるお客の中の9割型夫婦かカップルなのだが、見えてくるのは女性に握られた主導権だった。日本の子供たちが‘お父さんとお母さん’と呼ぶのに対して、イギリスでは‘Mum&Dad’’ママとパパ‘とお母さんが先にくるところからもその主導権が顕著だ。イギリス人女性は強い。そして男性の扱い方がうまい。
ある近くの教会で挙げられる結婚式に出席するために泊まりにきた若いイギリス人夫婦。朝、旦那さんがあわてて私のところにアイロンを貸してくれと言ってきた。「彼女が今シャワーを浴びているんだ。急がないと」と焦って自分のネクタイとズボン、そして彼女のワンピースにアイロンをかけ始めた。終わると急いで部屋に戻り、準備が終わって部屋から出てくると彼女をエスコートする。まるでちびまるこちゃんに出てくる花輪君と執事の光景だ。カルチャーショックだった。今でこそ日本も男性が家事を手伝い、女性をたてる場面をみることができるが、私のように亭主関白な父の元で育った私には想像もできない光景だった。
面白かったのが、日本人が来宿するときは決まってどこからともなくジュリエットのレディーファースト講座が始まる。車からの女性の下ろし方、ドアの開け方などなど即席講座を受けた日本の男性諸君。行きはてぶらで荷物を奥さんに運ばせていた人も帰りは奥さんがてぶらだった。講座を受けた皆はびっくりするほど執事、いや、ジェントルマンになって帰っていくのだ。
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by yukitosun | 2011-11-11 14:17