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ボスは米寿のシルビアおばあちゃん

~ボスは米寿のシルビアおばあちゃん~
イギリスでは大抵どの町にもファーマーズマーケットやフードフェスティバルといった食祭市が盛んで、特にファーマーズマーケットでは地元の農家で採れた野菜や果物を定期的に野外で売り出すとても魅力的なイベントだ。
ある日、私は教会のとなりにある公民館で‘毎週金曜日 ファーマーズマーケット9時30分オープン!’という看板を見つけた。入ってみると普段見かけるイギリスのマーケットとは少し違う。まだオープン前だったこともあり、外には長蛇の列ができていた。皆、手にはエコバックを持ち、楽しそうにおしゃべりしている。公民館の外では一人のおじいさんがかっこいい帽子をかぶりオープン前の直前販売をしていた。テーブルの上には真っ赤なトマトやインゲン豆、ラディッシュやジャガイモなど所狭しと並んでいた。値段を見てみると、トマト1パック1ポンド、インゲン豆一束50ペンスと、どれも100円から200円以内でお買い得。トマトはそのおじいさんが庭で育てたもので、インゲン豆やジャガイモは他の近所の農家や園芸を趣味としている人が出品しているそうだ。ロンというそのおじいさんは気さくにいろいろと話してくれる。そしてロンとの話の中でどういうワケか来週から私もこのマーケットに参加することになってしまった。
翌週の金曜日、ロンに言われた通り朝9時に集合場所へとやってきた。しかし、肝心のロンがいない。恐る恐る公民館の中へ入り、入り口に立っていたやさしそうなおばあさんに事情を説明した。「あの~実は今週からここでボランティアすることになったユキです。はじめまして。」
そのおばあさんはきょとんとして、奥にここのマーケットを取り仕切っているらしきもう一人の強面のおばあさんを連れてきた。そしてもう一度自己紹介。
「ロンから話は聞いていると思いますが、今日からお世話になります・・・」
びっくりしたようにそのおばあさんは私をまじまじと見つめている。「何も聞いてないわよ あなた誰?」
が~ん・・・・ やられた・・・
するとそこへ口笛を吹きながらポケットに手を突っ込んで見覚えのあるおじいさんが歩いてきた。ロンだ!私を見たロンは気まずそうに近寄ってきた。どうやら話をするのを忘れていたらしい。プラス、私が本当に来るとは思わなかったようだ。
出だしから最悪な初のマーケットのお手伝い。どうなることやら先行きが不安だった。
笑顔一つ見せないおばあさん、あ~やっぱりイギリスの女性は苦手だと思った。気が強い。愛想笑いってものを知らんのかと腹立たしくも、自分のへらへらと取り繕った笑いが情けなくなる。ロンになんでちゃんと言っておいてくれなかったのよ!と怒ってもよさそうなものなのに、自分のつたない英語力とこんな銅像のように顔のしわがぴくりともしないおばあさんを前に何も言うことができなかった。
ロンが事情を説明している間、私たちのまわりには人だかりができてきた。マーケットの人たちが一体何事か、こんなド田舎の外国人があまりいない小さな町でアジア人が一人一体何をしているのかと見に来たのだ。ロンの言い訳、いや、説明が終わり「なるほど、そういうことなら」とそのおばあさんはこのマーケットのいきさつを説明しはじめた。
シルビアと名乗るこのおばあさんは何と88歳、このマーケットを仕切り初めて26年だという。そのせいか、背筋がピンとしていて、きびきびしている。そしてこの後私にとってとても大切な人となるとは、この時知るよしもない。
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by yukitosun | 2011-11-04 22:54 | ファーマーズマーケット